企画の紙を受け取り、赤い鉛筆を持って判断の前に立ち止まるビジュくんのイメージイラスト

「初めて見る人の目で、案内を読んでほしい」。前日にそう頼まれたビジュくんは、日曜の朝、机に一枚の試作を広げた。ついに誰かと一緒に動ける。うれしくて、赤い鉛筆をいつもよりきれいに削った。ところが一行目で手が止まる。催しの名前はある。場所も書いてある。でも、日時の欄だけが空白だった。

スマートフォンに追いかけるように連絡が入る。「読みやすい日付も考えてもらえますか」。曜日と時間帯の見せ方を聞かれたのだろうか。それとも、開催する日そのものを決めてほしいのだろうか。ビジュくんは昨日ノートに引いた線を思い出した。自分が引き受けたのは、決まった情報を読み手の立場で確かめること。催しを開く判断まではしていない。

この物語のビジュくん、依頼した人、会話、案内は創作です。実在の団体や個人による依頼、開催、成果を描いたものではありません。

空白は、文字を入れれば埋まるわけではない

案内を読んだ人が最初に知りたいのは、いつ、どこへ行けばよいかだ。ビジュくんにもそれは分かる。だからこそ空欄が気になる。日曜の午後なら人が来やすそうだ、という考えが一瞬浮かんだ。赤い鉛筆で仮の数字を書けば、紙面はすぐ整う。けれど、その日が会場の都合に合うか、準備する人が動けるか、参加を呼びかける相手にとってよいかは、彼には分からない。

試しに空白のまま全体を読んでみる。「参加してみたい」と思った直後に、いつ予定を空けるべきか分からなくなる。これは確かに読み手の困りごとだ。一方で、困りごとを見つけた人が答えまで決めてよいわけではない。ビジュくんは空欄へ日時を入れる代わりに、余白へ小さな丸を描いた。ここには判断が必要だ、と分かるように。

日時欄が空いた試作の案内を前に、赤い鉛筆を止めるビジュくんのイメージイラスト
日時欄が空いた試作の案内を前に、赤い鉛筆を止めるビジュくんのイメージイラスト(イメージイラスト)

相手の「考えて」を、聞き返す

ビジュくんは返事を書きかけた。「僕には決められません」。正しいけれど、これだけでは相手が何に困っているか分からないままだ。いったん消し、短い通話をお願いした。相手が言う「読みやすい日付」は、候補日から参加しやすそうな日を選ぶ相談なのか、それとも決まった日時の書き方なのか。そこを先に確かめたい。

通話で聞くと、相手の手元には二つの候補日があった。どちらも会場に仮の相談をしている段階で、まだ主催側の最終判断は出ていない。相手は、ビジュくんに「この案内なら、どちらの日付を大きく見せるべきか」と尋ねたつもりだったという。言葉のずれが一つ見えた。ビジュくんは「日付を選ぶことと、決まった日付を読めるように見せることは、別の作業ですね」と返す。

相手は少し黙り、「確かに、まだ大きく書ける日は決まっていません」と笑った。ビジュくんも笑った。聞き返す前は、断ったら一緒に動く話が消える気がしていた。でも、何を決める会話かそろえると、二人とも次に何をすればいいか見えてきた。

相手の話を聞き、二つの候補日と案内の書き方を分けて考えるビジュくんのイメージイラスト
相手の話を聞き、二つの候補日と案内の書き方を分けて考えるビジュくんのイメージイラスト(イメージイラスト)

決める人と、確かめる人を分ける

ビジュくんは机の上に紙を二枚置いた。一枚には「主催側が決めること」、もう一枚には「読み手として確かめること」と書く。前者には、開催日、開始と終了の時刻、会場を使えるか、募集をいつ始めるか。後者には、日時の見え方、曜日の書き方、場所への案内を読む順番、変更が起きたときに気づけるか。もちろん、これらは架空の案内での整理だ。実際の企画なら、決定権を持つ人と確認手順をその都度確かめる必要がある。

彼は二枚の間に一本の矢印を引いた。主催側が決めた情報が来てから、読み手として試す。その順序なら自分の仕事を果たせる。「日付が決まるまで、見出しと場所の説明を先に見ます。日時が確定したら、読みやすい形を二案出せます」。相手にそう伝えると、できることが具体的になった。

二枚の役割カードを机に分け、決定と読み手の確認の順番を示すビジュくんのイメージイラスト
二枚の役割カードを机に分け、決定と読み手の確認の順番を示すビジュくんのイメージイラスト(イメージイラスト)

返事は、次の作業が見える長さにする

通話後、ビジュくんは長い議事録を書こうとした。話したことを全部残せば安心だと思ったからだ。しかし半ページで読み返すと、一番大事な「誰がいつ決めるか」が埋もれていた。彼は三行に縮める。主催側で日時を確定すること。決定までビジュくんは見出しと場所の読みやすさを見ること。確定後に日時を入れた案を一度確認してもらうこと。

「確認してもらう」は、送って終わりではない。誰に返せばよいか、返事を待つ間は公開しないかも添える。昨日考えた問い合わせ窓口と同じで、作業の出口が曖昧だと、完成したように見える紙だけが先へ進んでしまう。ビジュくんは一枚の試作に「確認中」と手書きで添え、外へ見せるものと混ざらないようにしまった。

次に、案内を初めて読むつもりで、見出しから場所まで目を動かす。住所の前に建物名が来ていて、町を知らない人にはどこにあるのかつかみにくい。これは彼が引き受けた範囲で言えることだ。紙の上に順番を変えた案を一つだけ作り、元の文と並べる。主催側の判断が要る部分には手を入れない。

確認が必要な項目を短いメモにまとめ、試作と一緒に返す準備をするビジュくんのイメージイラスト
確認が必要な項目を短いメモにまとめ、試作と一緒に返す準備をするビジュくんのイメージイラスト(イメージイラスト)

「できません」の先に、小さな共同作業がある

午後、ビジュくんは修正案と三行のメモを送った。「日時そのものは僕が決められません。決まったら読み手に伝わる見せ方を試します」。送信後、少し胸がざわついた。せっかく声をかけてもらったのに、面倒な人だと思われただろうか。画面を何度も開きそうになり、昨日パートナーと決めた短い作業時間が終わったことを思い出す。今日はここまで、とノートを閉じた。

夕方、相手から「日時は主催側で決めます。場所の順番の案は分かりやすかった」と返事が届いた。大きな成果ではない。案内はまだ完成していないし、催しの開催も決まっていない。それでも、役割を曖昧にしたまま前へ進むことは避けられた。ビジュくんは次のノートに、確定した情報を受け取る日を空欄で残す。空欄は失敗ではない。決める人の返事を待つための場所だ。

あなたが誰かの企画を手伝うなら、最初の一枚で何を決め、何を確かめるだろう。引き受ける前に役割を置いた前回の話も、合わせて読めます。連載の最初から見るなら、栃木での野望を一行にした回へ。ビジュくんの次の仕事は、決まった情報が届いたとき、誰に何を確かめてもらうかを考えることだ。

修正案を相手に渡し、それぞれの次の一歩を確認するビジュくんのイメージイラスト
修正案を相手に渡し、それぞれの次の一歩を確認するビジュくんのイメージイラスト(イメージイラスト)