試作の紹介画像を手に、相手の反応を聞くビジュくん

「きれいだけど、うちでは使いにくいです」。ビジュくんの作った紹介画像を見て、相手がそう言った。栃木の小さな商品を紹介するための試作を、一枚だけ持っていった日だ。写真の明るさも、文字の配置も、自分では気に入っていた。だから、返事を聞いた瞬間、耳の奥が熱くなった。

相手は続けて、「毎週これを作る時間がないんです」と言った。ビジュくんはそこで、自分が問題を一つ取り違えたことに気づいた。見栄えを整えることより、少ない手間で続けられることが必要だったのだ。この相手と試作は創作であり、実在の店の評価や成果を描いたものではない。

十ページの企画書から、一枚の試作へ

少し前まで、ビジュくんは地域で何か役に立とうと、十ページの企画書を作っていた。友人に「誰に見せるの」と聞かれ、いったん閉じた。その後、公開の交流会でできることから始め、机を運び、話を聞いた。会った人の紹介を通じて、今回の相手と短い時間を取ってもらえた。いきなり提案を受けてもらったわけではない。

十ページの企画書を閉じ、一枚の試作へ絞るビジュくん
十ページの企画書を閉じ、一枚の試作へ絞るビジュくん(イメージイラスト)

最初の会話で聞いたのは、商品の写真を撮り、発信する時間が足りないということだった。ビジュくんは「では画像を一枚試してみませんか」と提案した。相手が了承した範囲で資料を受け取り、何を見せてよいかも確認した。仕事として続ける約束はせず、今回の一枚について、使えるか率直に教えてほしいと頼んだ。

それでも、制作が始まるとビジュくんは自分の得意な表現へ寄っていった。整った写真、大きな見出し、凝った余白。見る人には分かりやすいかもしれない。しかし、相手が自分で次の一枚を作るには手間がかかる。使いやすさを聞いたはずなのに、作る途中で忘れていた。

断られた理由を、言い訳で埋めない

ビジュくんは「テンプレートにすれば簡単です」と答えかけた。そのテンプレートを誰が直し、いつ写真を差し替えるのか。そこまで考えないまま「簡単」と言うのは、また同じ失敗を繰り返す。彼は口を閉じ、「どの作業が一番負担になりそうですか」と聞いた。

相手の負担を聞き取り、言い訳をせずメモを取るビジュくん
相手の負担を聞き取り、言い訳をせずメモを取るビジュくん(イメージイラスト)

相手が挙げたのは、画像を作る時間だけではなかった。何を載せるか毎回迷うこと。新しい写真を撮れない週もあること。発信した後の問い合わせに対応する人が限られること。ビジュくんは、見た目を修正する前に、発信の頻度と目的から考え直す必要があると分かった。

断られると、自分の能力まで否定された気がする。帰りの電車で、ビジュくんもそう思った。だが、今日の返事は「あなたは要らない」ではない。「この形では続けられない」だ。そこを分けて受け取ると、次に聞くことが見えてきた。

次は、作る回数を減らす提案

ビジュくんは試作を直す前に、発信の流れを紙に描いた。商品を選ぶ。写真を撮る。紹介文を決める。公開する。問い合わせに答える。どの工程に時間がかかるか、相手と一緒に印を付けるためだ。

商品選びから問い合わせ対応まで五つの工程を整理するビジュくん
商品選びから問い合わせ対応まで五つの工程を整理するビジュくん(イメージイラスト)

もし毎週の新しい画像が負担なら、毎週作ること自体をやめてもいい。まず一つの商品について、よく聞かれることを整理し、必要な情報を一枚にまとめる。写真を撮り直す前に、今ある写真で伝わるか試す。文章も、店の人が普段お客さんに話している言葉から始める。派手さは減るが、相手が使える可能性は上がる。

ビジュくんは、まだ次の制作を約束していない。相手の時間をまた借りるなら、今回の気づきを短くまとめ、続けて話す価値があるかを確かめる。その返事が「今は必要ない」なら、そこで止める。挑戦とは、何としても自分の案を通すことではない。

移住の話も、同じ順番で進んでいた

帰宅して、ビジュくんは移住のノートと試作のメモを並べた。最初は、気に入った町の景色を見て、すぐ暮らせると思った。平日の移動を調べ、仕事の条件を確かめ、引っ越し費用を計算すると、見えていなかったことが次々出てきた。パートナーの火曜日まで考えたら、計画はもう一度書き直しになった。

移住のノートと試作のメモを並べ、計画を見直すビジュくん
移住のノートと試作のメモを並べ、計画を見直すビジュくん(イメージイラスト)

それは後退ではない。自分が見たい未来に、ほかの人の時間や暮らしを加えていく作業だ。今回の画像も同じだった。自分には良い一枚でも、相手の仕事に入らなければ役に立たない。

ビジュくんは予定表に、栃木へ行く次の日を入れた。相手から返事があれば、短いメモを持って話す。返事がなくても、地域の交流会にはまた顔を出す。移住するかどうかの判断も、仕事と家族の確認がそろってからにする。すべてを一度に進めようとしていたころより、今のほうが一歩ずつ動けそうだ。

不採用の一枚を、持ち帰って終わらせない

試作画像のファイル名を変えようとして、ビジュくんは少し迷った。「失敗」にするか、「初版」にするか。最後は日付だけを付けた。よかった点も、使いにくかった点も、次に確認することも、別のメモに残す。消してしまえば、同じ思い込みからまた始めることになる。

栃木で挑戦したい。その言葉は、十本の物語を通って、少し手触りが変わった。大きな決意だけでは人も町も動かない。平日の道を歩き、仕事の条件を聞き、費用を数え、家族の予定を見て、地域の人の時間を尊重する。そして一枚つくって、使いにくいと言われたら、もう一度考える。

もしあなたにも、まだ採用されていない一枚があるなら、その中の「使いにくい」を聞きに行ってみよう。そこには、次に必要な仕事の輪郭が残っているかもしれない。ビジュくんの次の挑戦は、相手の言葉から始まる。

次の訪問で聞くことを、三つに絞る

ビジュくんは修正版を作る前に、質問を三つだけメモした。画像を使うのは誰か。更新するのは誰か。紹介を見た人に、次に何をしてほしいか。最初の試作では、自分が見る人のことばかり考え、使う人と更新する人を見ていなかった。

試作を保存し、次の訪問で聞く三つの質問を書き出すビジュくん
試作を保存し、次の訪問で聞く三つの質問を書き出すビジュくん(イメージイラスト)

答えによっては、画像は不要かもしれない。店頭で一枚の案内を置くほうがよいかもしれないし、今ある文章を整理するだけで足りるかもしれない。ビジュくんは得意な仕事を手放すのが少し惜しい。それでも、必要のないものを作り続けるより、相手に使える形を探したい。

次の訪問までに、もう一つ決めた。自分にかけられる時間と、相手に確認してもらう時間の上限だ。小さな実験でも、無料なら無限に続けられるわけではない。続けるなら双方が納得できる範囲と条件がいる。ビジュくんにとって、挑戦を仕事へ育てるための最初の練習になった。

関連情報

確認日:2026年10月9日。本文の人物、店舗、試作、会話は創作であり、実在の事業実績ではありません。